「Liar! Liar!」表紙

「Liar! Liar!」

 B5/58ページ/表紙 カラー/本文 スミ1色
 「ONE 輝く季節へ(Tactics))」川名 みさきの小説
 text and edit by 成瀬 尚登 / illustration by 不知火 菱
 即売会価格 500円


[履歴]
 2000年 8月13日(コミックマーケット58) 初版発行予定


【本文紹介】

 その時、不意に視線を感じた。
 振り向くと、先程の少女が、こちらを向いて微笑んでいた。
 的確な返答ができずに、浩平は、逃げるようにまた空を見上げた。
 しかし、それでも視線は浩平から離れることはなかった。
 さすがに浩平は声をかけようとした。
「あの……」
「夕焼け、綺麗かな」
 えっ、と浩平は声をあげてしまった。
「夕焼け?」
「うん、夕焼け。点数をつけるなら、何点くらいかな?」
「そうだな……」
 浩平は再び空を見上げた。
 夕焼けに点数などつけたことなど、これまでに一度もない。そもそも、夕焼けに点数をつけるという行為の意味がわからない。
 だから、その不自然な質問を、浩平は真剣に答えることにした。
「……55点」
「ふうん……結構、辛口なんだね」
 少し期待はずれのような口調で、少女は言った。



「先輩って……強いよね」
「強い……のかな」
 虚をつかれ、少し考えるように、みさきは小首を傾げた。
「先輩を見ていると、生きていることはこんなに楽しいことなのか、って思えてくるんだ……すごく、がんばろうって気持ちになるんだ」
「えっ……」
 驚いた瞳を浩平に向ける。その端には恥ずかしさがのぞいていた。
「そんなことないよ。私、そんなにすごい人じゃないよ」
「苦しいこととか悲しいこととかが、すうっと消えていくような、そんな気がするんだ」
「……強く、ないよ」
 みさきはつぶやくように言った。
「強くないよ。私、先天性のお人好しだから、まわりの人を信じているだけだし、それに、信じるしかできないんだよ……」
「……それが、多分、強いってことなんだろうな」



「……たとえばの話だよ」
 つぶやくように、浩平は言った。
「え……?」
 腕の中でもがくみさきの動きがとまった。
「……もし、先輩が、俺のことを忘れたら、俺はどうすればいい?」
「えっ……」
「たとえば、の話だよ」
「……たとえばでも、答えたくないよ、その質問には」
 みさきの顔が気色ばんだ。
「そんなこと、絶対にないよ。どうしてそんなことを聞くの?」
「……ごめん……」
 浩平はうなだれた。
 すると、その頬を、みさきは優しく撫ではじめた。
「言わなくてもいいよ。浩平くんと同じ気持ちには、誰もなることはできないし、私もなれないけど……でも、私は、浩平くんの苦しみを受け止めることなら、できると思うよ」
「先輩……」
「それで、浩平くんと同じ気持ちになれるなら、私に、浩平くんの苦しみを、分けて欲しいんだよ」



「俺は、先輩と同じ気持ちになれたんだよ」



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