「love me, I love you」 | ||||
B5/54ページ 表紙 カラー/本文 スミ1色 「ONE 輝く季節へ(Tactics))」七瀬 留美の小説 text and edit by 成瀬 尚登 / illustration by 不知火 菱 即売会価格 500円 [履歴] 2000年11月26日(Bright Season 7) 初版発行 2001年 4月29日(Bright Season 8.5 Premiun) 第二版発行 ・P17の挿絵の差し替え ・文章表現の変更、語句表現の修整、誤字脱字の修正 2001年10月28日(Comic revolution 30) 第三版発行 ・表紙の修正 ・文章表現の変更、語句表現の修正、誤字脱字の修正 |
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【本文紹介】(第二版より) 「ああ……今朝は悪かったな」 悪びれず、浩平は、新たに前の席の主となった少女にあいさつをした。 「今朝……」 少女はそうつぶやくと、次の瞬間、浩平の方へがばっと振り返った。 「あっ……!」 驚愕に歪む少女の貌。 浩平はふてぶてしく手を上げた。 「俺は折原浩平。また会ったのも、なんかの縁だ。よろしくな」 少女の口が、開いては閉じる。何かを言おうとして口の形を作り、それをすぐに思いとどまってつぐむ、という動作の繰り返し。 それまでたおやかだった表情の端には、かすかに怒りの色が浮かびつつある。 それを楽しそうに浩平は見つめた。 だが、自戒するように首を横に振ると、少女はまた微笑んだ。 「よろしく、折原くん」 それだけを言って、少女は前を向く。 「冷たいな……」 なおも少女にちょっかいを出そうと、浩平は身を乗り出す。 そして、そのまま固まった。 わずかにのぞく少女の瞳、そこに、殺気すら感じられるほどの冷たく鋭い光が浮かんでいた。 「……よろしく、七瀬」 少女は嫌気を隠さずに、ため息をひとつついた。 浩平は自分の席に深く座りなおした。 その迫力に気取らされたのは、認めたくない事実だった。 ☆ 「……で、いつまでくっついてるつもりなんだ、七瀬」 「えっ……」 いきなりの言葉に、留美はふと自らを顧みてそのことに気づいた。 留美は、浩平に寄り添うように、その胸に顔を寄せていた。 急に顔を上げ、留美はきっと浩平をにらむ。 「い、いいじゃない。さ、寒いんだから」 その頬が、真っ赤に染まっていた。 「俺もかまわないんだけどな」 浩平もおのずと声をうわずらせて応えた。 「だったら、そんなこと、言わなきゃいいじゃない。それとも、私にどいて欲しいの?」 「そんなこと……」 そう言いかけて、浩平は言葉に詰まった。 いつのまにか、留美の真剣なまなざしが、浩平を見据えていた。 じっと、浩平の次の言葉を待っているように見えた。 「……そんなこと、あるわけないだろう。俺は、七瀬と一緒いて、楽しんだからさ」 ☆ 「夢を見ているみたいよ」 留美はそう言って楽しそうに笑った。 夢の時間だったのかもしれない。 ついこの前までは、どこの誰なのかわからなかった少女とこうして踊っている。 同じ夢を、この少女と見ていただけなのかもしれない。 そして……。 鐘は鳴った。 公園中に6時の鐘が鳴り響き、いくつもの鐘が互いに響きあって、幻想的な空間を作り出す。 だが、浩平にとっても留美にとっても、その鐘は、一つの現実を知らせるものだった。 「……そろそろ、かしらね」 ややあって、留美は切り出した。 「そうだな……」 浩平は、それを認めたくないのを無理に飲み込んで、そう答えた。 「さようなら」 留美は微笑んだ。 まるで、これからも消えないでそこにあるように、浩平の日常にずっとずっと存在しつづけるかのように、留美の微笑はいつもと変わらない清らかさを感じさせた。 ☆ 「……ずっと、寒いんだろうな……」 |
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