「Out of the rain」表紙

「Out of the rain」

 B5/50ページ/表紙 カラー/本文 スミ1色
 「ONE 輝く季節へ(Tactics)」里村 茜の小説
 text and edit by 成瀬 尚登 / illustration by 不知火 菱
 即売会価格 500円


[履歴]

 2000年 5月14日(Comic Revolution 27) 初版発行

 2000年 7月 2日(Bright Season 6) 第二版発行
  ・表紙の修正(メイド茜の位置)
  ・P3の扉絵を差し替え
  ・P44/P45の入れ替え
  ・その他、文章表現、誤字脱字の修正

 2000年11月26日(Bright Season 7) 第三版発行
  ・挿絵の細部を修正
  ・文章表現、誤字脱字の修正

 2001年 4月29日(Bright Season 8.5 Premium) 第四版発行
  ・語句表現の修正

 2001年10月28日(Comic revolution 30) 第五版発行
  ・語句表現・誤字脱字の修正

【本文紹介】

「……それで足りるのか?」
 しばらくして、早くも自分の弁当を食べ終わってしまった浩平が、少女をまじまじと見ながら尋ねる。
 少女は目も合わせずに、黙々と小さなランチボックスと闘い続けている。
 ふう、と浩平はそっぽを向いて、やや投げやり気味に小さくため息をついた。
「足りないから、2個持ってきてるんだろうけど……」
 その時、ぴくっと、少女の肩が揺れた。
 はっとして見返すと、あからさまに敵対心を抱いた瞳が、浩平に向けられていた。
「あ、だって、ほら……」
 その予想外の反応にとまどいを隠せないまま、浩平はランチボックスの入っていた袋を指さした。
 確かに、そこにはもう一つの箱が入っていた。
「……私のでは、ありません」
 ふたたび視線を落として、少女が答えた。
「食わないなら、俺がもらってもいいか?」
 なんとか食い下がろうと、浩平は言葉をつなげる。
「嫌です」
「だって、無駄になっちゃうだろ」
 すると、少女は顔を上げて、きっと浩平をにらんだ。
「あなたには関係のないことです」
 その反応に、浩平はそれ以上の追及をあきらめた。
 純粋な怒りを抱いていることが、その瞳でわかった。



「あなたも、消えてしまうんですか?」
 浩平ははっとして目を見開いた。
 いきなり核心をつく茜の言葉に、思わずその身体の力が抜けそうになった。
「そんな……」
「約束して、いただけませんか?」
「なんて?」
「浩平は消えないって。そう、私に約束してください」
「ははは、何を言ってるんだ、茜……」
 浩平はいつもよりも大きな声で笑った。
 だが、茜は笑っていなかった。
「そうです。私の言っていることは、おかしなことです。人が消えるなんて、普通ありえませんから。ですから……こんな約束、簡単だと思います」
 浩平は、じっとガラスに映る自分の顔を見ていた。
 無表情……いや、おそらくどこかひきつっているように見えるかもしれない。
 焦燥に駆られ、掌を閉じたり握ったりと、弄ぶ。
 口が渇く。
 やがて、浩平は偽りの鏡であるガラスをきっとにらんで、くるりと振り返った。
「約束は……」
 そう言いかけ、それ以上、何も言うことができなかった。
 茜は涙を浮かべて、じっと、すがるように、浩平を見つめていた。
「あなたも……消えてしまうんですか?」
 つうっと、ひとすじの涙が、茜の頬をつたって落ちる。
 浩平は視線を落としてぎゅっと拳を握り、肩を振るわせた。
 答えることができないこと、それが浩平の答えだった。
「浩平!」
 茜は立ち上がって、浩平の胸の中に身体を預けた。
「嫌です……どうして……どうしてなんですか……?」
 こみ上げてくる感情を無理に押し殺して耐えているかのように、哀しい視線で茜はじっと浩平を見つめた。
 浩平は目を閉じて、首を横に振った。
「どうして……私が好きになった人は、私のそばからいなくなってしまうんですか」
 震える声で、茜がそう言う。
「ありがとう、好きって言ってくれて、うれしい。でも……」
「好きです……好きですから……」
 その腕が浩平の背にまわり、決して離さないと言うように、ぎゅっと抱きしめてくる。
「……離してくれ、茜」
「好きですから……どこにも行かないでください」



「……嫌いだ、雨なんて」



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