「かなしき いさよひ」表紙

「かなしき いさよひ」

 B5/42ページ/表紙 カラー/本文 スミ1色
 「With You 〜みつめていたい〜 (F&C))」乃絵美・菜織の小説
 text and edit by 成瀬 尚登 / illustration by 水咲 優


[履歴]

 2000年 1月30日(サンシャインクリエイション6) 初版発行

 2000年 8月13日(コミックマーケット58) 第二版発行
  ・本文の改訂
  ・本文フォントの変更
  ・その他、文章表現、誤字脱字の修正

 2001年 9月 9日(Little Lover2) 第三版発行
  ・本文の表現を修正、誤字脱字の修正
  ・本文フォントの変更


【本文紹介】

「……お兄ちゃんの、メイドさんになろうかな」
 冗談ぽい乃絵美の口調。
「メイドさんなら、お兄ちゃんのそばにずっといられるから」
「乃絵美……」
 正樹は乃絵美をみやった。
 乃絵美は……悲しそうな瞳で正樹を見つめていた。
「だって……お兄ちゃんは、いつかは、私以外のだれかのところに行っちゃうから」
 その言葉に、正樹は愕然として目を見開いた。
 寂しさの、理由……。
 正樹は圧倒されたかのように、無言だった。
 無言のまま、立ち上がって、逃げるように乃絵美に背を向けた。
 その身体が、後ろから、抱きしめられた。
「お兄ちゃんがそばにいないこと……お兄ちゃんが、私から離れていくことが、こんなに恐いことだったなんて……初めてわかったよ」
「乃絵美……はなせ」
「私は、ずっとお兄ちゃんのそばにいたい。お兄ちゃんをずっと見つめていたい」
「はなせって」
 やや乱暴に身体の前に回っている乃絵美の手をとり、身体を反転させる。
 その瞬間、乃絵美の顔が正樹の顔に近づいてきた。
 唇に、不思議なあたたかさを感じる。
 目の前に、瞳を閉じた乃絵美の貌があった。
 その突然のことに呆然として、正樹はしばらく動けなかった。
 乃絵美が唇を離す。
「……ごめんなさい、お兄ちゃん……」
 乃絵美の潤んだ瞳の熱っぽさ。
 その瞳から、涙がこぼれた。
「ごめんなさい……」
 乃絵美は、正樹の脇をすり抜けて、走り去っていった。

「……ごめんね」
 菜織が、正樹の背中に寄り添うように、ベッドに横になるのがわかった。
「実は……見てたんだ」
 びくっと正樹は肩を振るわせた。
「さっき、乃絵美が何を言ってたか……ぜんぶ聞いちゃった」
「そうか……」
 心に、ひどく重苦しい圧迫感を感じた。
 菜織は正樹の背中を抱いた。
 その突然の行動に、正樹はあわてて身体をそらそうとする。
 だが、菜織はしっかりと正樹を抱きしめると、熱っぽい口調で言った。
「乃絵美……いい子だよね。純粋で、健気で……乃絵美がアンタの妹でなかったら、絶対嫉妬してると思う」
「菜織……」
「……運命の赤い糸ってあるじゃない」
「ああ」
「運命の赤い糸って言ってもさ、やっぱり糸なんだから、切れるかもしれないし、別の糸があるかもしれない。でも……妹って、生まれたときから、もう絶対に切れない絆なんだよね……」
「切れない絆……」
「だから……だから、乃絵美、ずるいよ」
「菜織……」
「絶対に……アンタと乃絵美の絆は切れないって、それがずるい」
 そして、菜織は正樹の背中に顔を埋めた。
「ごめんね、今夜だけでいいから……一緒にいさせて」
 その言葉に、正樹は菜織に振り返った。
 菜織はそっと潤んだ瞳を閉じた。
 艶やかな半開きの唇に、正樹は唇を合わせた。



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