かせりゆめ やみのうつつ 改訂版 表紙

「かせりゆめ やみのうつつ 改訂版」

 B5/44ページ/表紙 モノクロ・特殊紙 /本文 スミ1色
 「With You 〜みつめていたい〜 (F&C)」乃絵美の小説
 text and edit by 成瀬 尚登 / illustration by h
 即売会価格 400円

[履歴]

 2001年 2月12日(Little Lover) 発行
  ・表紙・挿絵をすべて差し替え、絵師の変更
  ・「Lunatic Butterfly」の後半を、より濃厚な方向へリライト。
  ・表紙の装丁の大幅な変更
  ・「Fruits Assorted」「Lunatic Butterfly」の文章表現の改訂
  ・その他、文章表現、誤字脱字の修正

【本文紹介】

「……お兄ちゃん……」
 その唇は、桃色に淡く輝いていた。
 吐息……ずっと感じていた芳香、それは乃絵美の身体がただよわせる桃の甘美な香りだった。
「お兄ちゃん……」
 艶やかに輝く唇が、もう一度、熱っぽく言葉を放つ。
 その口許に、正樹は軽い酩酊感を味わった。
 乃絵美が立ち上がる。
 そして、しだれかかるように、正樹の胸に顔を埋めてきた。
 はっとして、正樹は乃絵美の華奢な肩をつかみ、その身体を引きはがす。
 だが、次の瞬間、正樹の身体から、力が抜けた。
 がくっと体勢を崩し、前のめりになりながら床に手をついて、呆然と乃絵美を見上げる。
 乃絵美のその瞳は、愛おしそうに正樹を包んでいた。
(「Perfumed Nightmare」)

「だめ……手は使っちゃだめなの……」
 潤んだ瞳で、なおも乃絵美は正樹の手を拒む。
「でも、そろそろパフェも飽きたしな……」
 そう言いかけ、正樹はあることを思い付いた。
「じゃあ、ハニーレモンパイをもらおうかな」
「……はい」
 乃絵美はおずおずとテーブルの上に腰掛けた。
(「Fruits Assorted」)

「どうして、そんな格好……」
 呆然として、正樹は乃絵美の貌を見返す。
 乃絵美は恥ずかしそうに言った。
「二人でいるときはこうしていろって言ったのは、お兄ちゃんだよ」
「えっ……」
 声を出して驚き、正樹はふたたび絶句した。
 すると、乃絵美の表情に急に陰がさした。伏せた瞳、その優美なまつげが震えはじめた。
「約束したのに……おぼえてないの、お兄ちゃん……?」
「乃絵美……」
 胸が締め付けられるような思いを感じて、正樹はどうしていいかわからず、とまどうだけだった。
 乃絵美は顔を上げた。
「そんなこと、ないよね。約束、まもってくれるよね、お兄ちゃん」
 潤んだ瞳で、乃絵美は正樹に迫った。
「お兄ちゃん」
 優しく、熱っぽい声で、乃絵美は正樹を求めた。
 そして、正樹はうなずいた。
 いまだにどうしていいのかわからないまま、何物かに衝き動かされるままに、うなずいたのだった。
(「Lunatic Butterfly style Deeper」)



[ index ] / [ publications ]