16ルリのナレーション
「黒い王子様と呼ばれた、あの人が帰ってきた。ま、身体のことはともかくとして、帰ってきたのだからよしとしましょう。まあ、人生、至る所に骨壺ありっていうし……違いましたっけ?」
「日々平穏」ではルリの17歳のお祝いがされていた。
そこへ、黒ずくめでバイザーをつけたアキトが入ってくる。
固まる場。
「アキトさん……?」
呆然としながらも笑顔を隠せないルリ。
「ただいま……みんなにお願いがある。誰か、俺と一緒に木星に行かないか?」
その不可解であまりに突然の言いように、唖然とする一同。
そこへタクシーに乗ってユリカが登場。
「いやあ、どうも遅くなっちゃいまして……あれ?」
「ユリカ……」
「えっと……どちらさまでしたっけ?」
ボケなのか嫌みなのか、どちらとも取れる発言をするユリカ。
たまらずルリが助け船を出す。
「アキトさんですよ」
「イヤだな、ルリちゃん。アキトはこんなセンスない人じゃないよぉ」
船はあっさり沈んだ。
「ぐっ……まあ、いい。誰かいないか?」
シーンとする一同。
「しつもーん」とお気楽に天野ヒカルが言う。
「木星にいくって、どうゆうことなんですかぁ?」
「10年ぐらい、俺と一緒にいてくれる人が、必要なんだ」
色めき立つ場。
「じゃあ、当然妻であるユリカが行くよ」
「……ちょっと考えさせてくれ」
「どうして、アキト」
「お前には、新しい人生を歩いてほしい」
ガーンと(9話で見せたような感じね)いう顔をするユリカ。
「よぉし、じゃ、俺が立候補するぜ」と、昴リョーコがすっくと立ち上がる。
「腕が立つヤツが必要なんだろ、テンカワ」
「まあな」
「じゃ、決まりだな」
「私じゃだめかしら、テンカワくん」
すると、お祝いの場なのにも関わらず、白衣のイネス博士が手を挙げた。
「身体のサポート。これ以外になにか説明がいるかしら」
「あら、じゃ、私も行けそうね」
店のドアが開き、エリナ女史が入ってくる。
三者で視線のぶつけ合いが始まる。
そこに、意識を通常空間に戻したユリカが割ってはいる。
「だめです! 10年も一緒なんて、妻である私が絶対に許しません!」
「でも」とルリが冷静に割ってはいる。
「お二人は婚姻届を出す前に事故で亡くなったことになってますから、戸籍上夫婦ではありませんよ」
「ええっ!じゃ、今から入れればOKだね、アキト」
「……戸籍がキレイなら、まだやり直せるだろう」
再びガーンという顔のユリカ。
「ひどいよ、私の身体目当てで弄んだだけなんだね、ううう」
「ユリカ……」
優柔不断はさすがに”奴らの実験”でもなくさなかったらしい。
「なんだよ、そんなことなら、今から行こうぜ、テンカワ」
どこへ行くのだ、昴リョーコ。
「あら、月で色々とお世話してあげたじゃない、アキト君」
何の世話だエリナ女史。
「なくした時間、取り戻そうよ、”お兄ちゃん”」
無理だと思うぞ、イネスフレサンジュ。すると……
「……アキトさん、私ではダメですか?」
ルリが突然の立候補宣言をする。
「ルリちゃん……」
「ダメです!」「ダメだ!」「ダメよ!」「ダメじゃないかしら」4者4様に抗議する。
「どうしてですか?」
「説明しましょう。ホシノルリ、あなたはまだ17歳」
「それがどうしたんですか」
「とても厳しい条例があるの」
ルリが、劇場版で映画館の89%(成瀬は当然それからのぞかれる)の大きいおともだちを悩殺した切ない顔をアキトに見せる。
「アキトさん……待っててくださいますよね」
何を待つのだ、ホシノルリ。
すると、ルリの意識に割り込む声があった。
「アキトをとらないで……」
感情をラボに置きさったようなどう聞いても19歳の声のラピスが言う。
「あなたが先にアキトさんをとったから悪いのよ、ラピスラズリ」
「あなたを待てるなら、アキトは私も待つわ」
形而上的な戦いを続けるルリとラピス。
すっかり置いてきぼりを食らっている他の面々は、できあがったホウメイの料理をつつきはじめるのだった……。
(絶対に続かない)