ユリカ「アキトさまは私のご主人さまですよね♪」  アキト「んーと……」  ユリカ「ずっとずっとおそばでお世話させてくださいね」  アキト「えーと……」  ユリカ「……アキトとずっとこうしていられるなら、ずっとメイドさんをしてようかな……」  アキト「それは違うと思うぞ、ユリカ」  ユリカ「そうかなあ」  アキト「そうだよ」  ユリカ「そうかなあ……?」アキトさまはユリカのご主人さま♪

(Rascal師謹製のタイトル画。画像をクリックすると、背景付きオリジナル画像が見られます)

Copyright(C)1998成瀬尚登



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 「ゲキガンガー3」を取ったら何も残らない部屋、それが天河アキトの部屋である。もちろん人間が生活しているのだからそれなりのモノは備わっている。しかし、人はただ生かされているという存在ではなく、自らの意志で生きてこそ生きていると言えるのであって、それは彼=天河アキトも例外ではない。ただ、彼の場合、その生きている証が「ゲキガンガー3」なだけなのである。いい趣味かどうかは別として、本人が気に入っているのだから、他人がどうこういう筋合いはない。ただし、そのほとんどが形見であるということも忘れてはならない。ビデオ、ポスターなど、これらを遺して去っていったダイゴウジ=ガイ(注:魂の名前)。これらの遺品を見るたびに、アキトはガイの死に様を思い出す。かっこよくはない、しかし、熱いものを残して去っていった。そのせいもあって、彼は部屋や天井に張ってあるポスターをはがすことはできないし、する気も起きなかったのである。彼の目覚めは天井のポスターと共に始まる。それがいつもの朝の風景であった。


 1


 アキトはまぶしさに目を覚ました。朝……?いや、宇宙空間に太陽の光はない。じゃあ、このまぶしさはなんなのだろう……。いつものように電気のスイッチに手を伸ばしたが、そこでいつもと違うことに気づいた。

 電気がついていたのである。

 おかしいな、昨日ゲキガンガーのビデオ見ながらねちゃったのかな、といぶかしげに思いながら天井をみると、そこにはけばけばしい色使いのポスターがなかった。はがれちゃったのかな、とまわりを見回した。そして、そこでようやく、彼は自分の身に起こっている異変にきづいたのであった。

「な……なっ……」

 壁には上品な色使いのパステル調壁紙。

「な……」

 アンティークな調度品。

「なぁぁ……」

 ゲキガンガー関係のものは、その存在を確認できない

「なんだこりゃあああああああ!」

 アキトは大声で叫んでしまった。ここはどこなんだ、自分はいったいどうしてしまったんだ。これは夢なのか、それとも寝ている間にナデシコがどうにかなってしまったのか。

 だが次の瞬間、その疑問は一気に吹き飛んだ。

「おめざめですか、アキトさま(はぁと)」

 はっとして声の方を振り向く。そこには御統ユリカが正座をしていた。だが、そのいでたちは、彼の知っているナデシコ艦長であるユリカのそれとは違った。黒いブラウスに黒いスカート。その上からフリルのたくさんついたエプロンをつけている。胸には細かい細工が施された紅玉のブローチ、そして、髪にはカチューシャが載せられていた。

 メイド服……アキトはそう判断した。

「ゆっ、ユリカぁ?」

「おはようございます、アキトさま」

「あ、アキトさまぁ??」

 アキトさま……この世に生を受け、いままで「さま」をつけて呼ばれた記憶はない。

 はい、とユリカ……とはまだ信じきってないアキトであったが……はいつもの笑顔で答えた。

「あなたは、ナデシコの艦長の、御統ユリカさん……ですよね?」

 身体の向きを変え、わけがわからない、という顔で、彼は聞いた。

「うん……じゃなくて、はい、私はナデシコの艦長さんの御統ユリカでーす」

 ……間違いない、ユリカだ、とアキトは確信し、そして同時に、事態をほぼすべて飲み込んだ。

「……あのなあ、ユリカ」

「ん?なに、アキトぉ……さま」

「いったい、何の真似だ、これは」

 腕組みをして、目をつぶる。アキトは怒りのあまりこめかみをひくつかせていた。

「メイドさんでーす♪」

 いたってユリカらしい口調で、いたってユリカらしい返事が返ってくる。

「っ……そうじゃなくて、なんでそんな格好してるんだとか、俺のゲキガン……」

「それは、今日は、コスプレの日だから」

「こ、コスプレえぇえ?」

 アキトは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。コスプレ……コスチュームプレイって……

「そ、それは一体……」

「今日はみんなでコスプレをしましょうっって日にしたの」

 ユリカが目を輝かせて答えた。

「いつ?」

「昨日の夜」

「誰が?」

 アキトが不審そうな目を向ける。それに答えるかわりに、ユリカはぶいっとブイサインをつくった。

 アキトはがっくりうなだれた。そして、二の句を告げようとした時、ユリカの前にホシノ=ルリの映像が開いた。

「艦長。朝礼の時間です。ブリッジに来てください」

「はーい。ということで、ご主人さま」

 ユリカはアキトに向き直った。その勢いにおもわずのけぞるアキト。

「ユリカは行かなければなりません。お召し物はそちらに用意してございます。それでは、失礼しま〜す♪」

 そう言い残し、ユリカは笑顔で部屋を出ていった。それを見届け、ふう、と安堵のため息をつくと、ユリカの言う「そちら」を向いた……。

 それからおよそ5秒間、アキトの身体は凍り付き、そしてさらにその後5秒間口をパクパクさせ、そしてそしてさらにさらにそのその後5秒間、「そちら」を指さしていた。

 指さされたもの、それは、黒いタキシード一式。白いシャツの上には、ごていねいにも赤い薔薇のイミテーションが載せられていた。


 2


「みなさーん。おはようございまーす」

 ブリッジに上がったユリカの開口一番の声に、居合わせたクルーはみな振り向き、そして一様に、驚きと困惑の入り交じった表情をみせた。

「あれあれっ、みなさん、どうかしましたかぁ?」

 さすがに空気を読んだユリカが、いかがわしげな視線を向けるクルー達を見回した。

「……艦長」

 ルリが立ち上がった。

「ごめんなさい。私、まだみなさんにお伝えしていませんでした」

 ぺこりと、ユリカに頭を下げるルリ。ええっっっと驚いて見せ、副長席にすわるアオイ=ジュンに視線を移した。

「ジュン君も何もいってなかったのぉ?」

 自分に矛先を向けられて、ジュンはたじたじになった。

「い、いやあ、まさか、本当に、そんなことするなんて……は、ははは」

 ジュンは笑いでその場を切り抜けた。ユリカは前をむき直すと、頬をふくらませた。

「わっかりました。艦長がじきじきにみなさんにお伝えすることにします。ルリちゃん、回線ひらいて」

 ユリカは明瞭にそう言い切ると、胸のブローチの角度を直した。ナデシコでは、毎週月曜日の朝に朝礼がおこなわれ、「今週の留意事項」が艦長からクルー各位に伝えられる。その回線を、ユリカが開いたのだ。

  ☆

「……みなさん、艦長の御統ゆりかで〜す」

 ぶっ、っと飲んでいた麦茶を吹き出す者あり。

「今週もがんばってお仕事しましょう♪」

 驚きのあまり、濃い目のルージュを唇から頬にはみ出させてしまう者あり。

「さて、これから艦長から本日の”すぺしゃる=いべんと”についてお知らせします」

 黙々とジャガイモの皮むきをする者あり。

「本日は、ナデシコ艦内はコスプレの日とさせてもらいます」

 福利厚生としては安上がりで助かりますね、と宇宙ソロバンをはじく者あり。

「ということで、今日はみなさん、思い思いの格好でお仕事してくださいね。朝礼おわりっ」

 静かな湖畔でカッコウがバーベルを持つ。♪重い……重い……思い思い……ふっくくくと笑う者あり。

 様々な思いで艦長の姿を見るナデシコのクルー。彼らは強者ぞろいである。しかしそれでも、みんな心の内では、その画面に突っ込みをいれずにはいられなかった。

「艦長……なんであんたメイド服なん?」

  ☆

 ここに、ただ一人、その突っ込みを入れなかった人物がいる。テンカワ=アキトその人である。

「ちきしょう、どこにやったんだ、俺の服!」

 ヤケ気味に叫んでいる。これで5度目。タンスというタンスは引き出しを開けられ、空っぽの中身をさらしている。ユリカの用意したタキシードは床のうえに無惨に置き棄てられている。

 タンスや衣装棚は6個もある。しかし、そのうち5個は空だった。目の前にある6個目のタンスに何も入っていなければ、彼は「コスプレの日」に参加させられてしまう。ごくっと、緊張のあまり唾を飲み込んだ。そしてしゃがみこみ、下の引き出しから開けていく。これは3個目のタンスで身に付いた技術だ。

  1段目、空

  2段目、空

  3段目、軽い

  4段目、……

 アキトはうなだれた。はぁ、と失意のため息。そして、くるっと振り返り、タキシードを凝視した。

「……勘弁して」

  ☆

 朝礼を終え、ユリカはエレベータホールへ向かった。アキトは既に部屋をでて食堂に向かっているらしいということを思兼の情報で知ったからだ。ブリッジを出てから、好奇の目、不審の目、その他いろいろな視線が向けられていることに彼女は気づいていない。

 エレベータホールにつき、上へのボタンを押す。タイミング良くエレベータが来て、チーンと言う小気味良い音と共にドアが開いた。

 ふんふふん♪と鼻歌混じりにエレベータに乗り込む。そして、ふと隣を見ると、タキシードを着た王子様が、ひきつった顔で硬直していた……。

「アキトぉ!!」

 とたんに破顔一笑して、ユリカはアキトの腕に腕を絡ませ抱きついた。

「すごくよく似合うよ、アキト。やっぱりアキト……さまはユリカのご主人さまだ……ですね」

 急に役割を思い出し、ユリカは無理に敬語を使いはじめた。だが、アキトは固まったままだった。

 やがて、チーンという音と共に、エレベータのドアが開く……。

「さあ、行きましょう。ご主人さま」

 そういうなり、ユリカはアキトの腕を取って、自分の腕を絡めてきた。だが言葉とは裏腹に、それは、メイドと主人というよりも、恋人同士のそれに近いかもしれない。

「……あ、アキトさん……」

 だが、ドアの外には、看護婦姿のメグミ=レイナードが立っていた。さすがにその表情からは明らかに動揺が見て取れる。

「め、メグちゃん……」

 さすがのアキトも動揺が隠せない。

「あ、メグミさん……あれ、ここ、まだ食堂じゃないや。あはは」

 さすがのユリカは笑う。だが、その腕はしっかりアキトの腕に絡めたままである。

 ややあって、エレベータのドアが閉まりかけたので、あわててメグミが乗り込んだ。

「……メグちゃん、何階?」

「……私も食堂ですから」

「そっか……」

 しばし、エレベータ内を沈黙がつつむ。アキトとメグミ、お互いに目を合わせないでいた。アキトは天井を、メグミは床を見ている。触れたくない何か、その思いをいまこの二人は共有していた。

 しかし、ここには三人いる。

「メグミちゃん、看護婦さんの服、よくもってたねぇ」

 3人目がすべてをぶちこわすように脳天気に言った。うっっという嗚咽がエレベータ内に響いた。


 3


 食卓を一組の男女が囲む。男はタキシード、女は看護婦。およそ病気がちの若旦那とお付きの看護婦。だが、二人の表情は、そんな耽美なものとはかけはなれたものであった。

「メグちゃん、食べないの?」

 アキトが、和食定食Aセットを前にしたメグミに声をかけた。

「い、いいんです。一緒に食べましょう。私、まってます」

 アキトの前には火星丼が湯気を立てている。しかし、端の方には既にすくった痕があった。

「いつ来るか、わからないよ。いいよ、先に食べててよ」

「そうですか……でも……」

「ご主人さま、おまたせしましたぁ♪」

 突然背後から、脳天気なメイドの声がした。そのままアキトの左隣の椅子に腰掛ける。

「ホウメイさんにスプーンを借りてきましたから、これならバッチリですっ」

 そう言ってユリカはスプーンをアキトの前にちらつかせた。

 それを見て、アキトとメグミは、ほぼ同時にため息をついた。この艦長(おじょうさま)は箸もろくにつかえないのか……、と。もっとも、御統ユリカの名誉のために記すが、火星丼を箸で食べる人間はごく希。つまり、ユリカは最初の戦術をあやまったということである。

 アキトの前の火星丼をとり、スプーンでたっぷりすくうと、ふぅふぅと息を吹きかけて、それをアキトの口許に運んでいった。

「はい、ご主人さま。あーん」

 うれしそうなユリカの顔。心底幸せそうな満面の笑みでアキトが口を開けるのを待っている。今度はこぼさずにうまく運ぶことができた。

 だが、アキトは口を開けない。それどころか拳を握って、何かを必死に耐えていた。

「……自分で食えるから、スプーンを置いてくれ」

「そんなぁ。ユリカはアキトさまのメイドなんですから、わがまま言わないでくださいっ。さあ、アキトさま……」

 さっきはここで無理に運んでしまったため、箸にのっていた火星丼がこぼれて床に落ちてしまったのだった。

「嫌だ。自分の飯くらい、自分で食う」

「そうですよ、アキトさん、いやがっているじゃないですか」

 メグミが強い口調で助け船を出す。好きな男に他の女が手ずから食べさせる光景を、まさか自分の目の前でされてはたまらない。彼女の視線におよそ4%の殺意が込められていた。

 だが、それを叱責と呑気に受け取ったユリカは、スプーンを丼にもどし、しゅんとなった。

「わかりました。どうぞ、アキトさま」

 火星丼をアキトに手渡す。その様子を、ちょっと気の毒に思いながらも、アキトはそれを受け取った。そして、スプーンをつかみ、いざ食べよう、と思った瞬間、左の二の腕に重さを感じた。みると、ユリカが再び腕を絡めていたのだった。

「お、おぃ……」

「艦長!」

 アキトをさえぎって、メグミが叫んだ。

「なんでそんなことするんですかっ」

 ユリカは笑顔で答えた。唇の端に約14%の不敵さを込めて。

「メイドはご主人様のおそばでお仕えするのがお仕事ですから」

 その挑発に歯ぎしりするメグミを横目に、ユリカは今度は満面の笑みでアキトに向き直る。

 その顔に、アキトは心臓をドキッとさせた。大きくて丸い瞳、濡れた睫、桃色の唇……アキトは思わずユリカに吸い込まれそうになった。だが、あらん限りの理性を動員して、目をきっと閉じ、首を左右に振って自分を取りもどそうと試みた。

 だが、試みが成功しかけたとき、彼のひじにふにゅっという柔らかい感触が走った。

「あ……」

 声を挙げたのは、ユリカもメグミでもなく、アキトだった。彼は背中に冷たい汗が落ちるのを感じた。

「……」

 メグミの「おまえを、殺す」的視線、ユリカの「そんなご主人さま、いけませんわ」的な視線の狭間で、アキトはただただ「勘弁して」的恐縮をするのみだった。

 ややあって、アキトは口を開いた。

「ユリカ……」

「はい?」

「……おれ、頭痛くなったから、部屋戻って、寝るわ。じゃ、おやす……」

 アキトはユリカの腕をふりほどいて、席を立った。ユリカも慌てて立ち上がり、そして、とどめとなるべき台詞を言った。

「……ご主人さま、頭がいたいんですかぁ?じゃあ、ユリカが一日中添い寝して、看病してさしあげますっ!」

 次の瞬間、メグミがばんっとテーブルを叩いて立ち上がった。

「アキトさん!艦長!そんなの……そんなのメイドさんのすることじゃありませんっ」

 怒りの涙を浮かべて、拳をぐっと握って、耐えている。

「メグミちゃん……」

 虚をつかれ、アキトはメグミに向いた。

「そんなのおかしいですよ。そんなのメイドさんじゃないですっ。ご主人様に手ずから食べさせてあげたり、添い寝して挙げたりするメイドさんなんて、私、みたことありません!」

「じゃ、じゃあ、本当のメイドさんは、一体どういうのをいうの、メグミさん」

 その勢いに圧倒されつつあったユリカがたまらず反論する。

「そ、それは……」

「説明しましょう」

 片手にメキシコのお菓子チュロスを持ったイネス=フレンサンジュが突然現れた。

  ☆

☆3☆

   ★2★

      ☆1☆

☆★※どかーん、わーい※★☆

♪なぜなにナデシコー♪

うさぎくん「みんなーあつまれー」

おねえさん「あつまれー」

博士「メイドさんっていうのは、主人とメイドの封建的関係に依存するものなの。だからその関係は、契約関係ではなく、いわば前近代的な身分関係なのね。それを規定するのは、契約書じゃなくて、あくまでメイド側からの奉仕の精神、ていうきわめて不明瞭なものなの」

うさぎくん「なんだか、よくわからないなあ」

おねえさん「つまり、メイドさんの気持ちが大事だってことだね」

博士「おほん。付け加えれば、メイドの主人に対する気持ちは、あくまで尊敬かつ畏怖。決して恋愛感情を持ってはいけないわ。それは許されざる恋なの」

うさぎくん「許されざる恋だって。うさぎくん、なんだかそういうのに弱いなぁ」

おねえさん「バカ」

博士「だから、必要以上に主人にくっついてしまってはいけないの。主人はメイドに仕事面での働きを期待しかているのであって、それ以外のことは求めていない。だから、食事を手ずから食べさせるとか、添い寝してあげるとかは許されないの。まして、主人が嫌がることをするのは論外ね」

  ☆

「わ、わかりましたか、艦長。メイドさんはそんなことをしないんですっ」

 メグミが、どうにか虚勢を張ってユリカに言った。

「ふうん、メイドさんの仕事って、案外少ないのかな」

 ユリカが感心したようにつぶやいた。まったくメグミの言うことを聞いていないのが見て明らかだ。

「でもでも、じゃあ、何をするのがメイドさんなのか、これじゃわからないよ、アキト」

 だだをこねるユリカ。アキトはその様子にちょっとときめいたが、努めて冷静を装って答えた。

「そ、そりゃ、部屋の掃除とか、洗濯とか……でも、俺の部屋、掃除してくれたじゃないか。あれはすごいと思ったぞ」

「違うよ」

「へ?」

「あれはジュンくんにやってもらったんだよ。ユリカ、あんな重いの運べない」

 あっけにとられるアキト。その脳裏に、ジュンが「何で僕がこんなことを……」といいながらもタンスを運んでいる姿が、実にまざまざと浮かんできた。

「とにかく、もうこんなこと……」

「艦長!木星トカゲを確認。すぐブリッジにきてください」

 突然、ルリの映像がユリカの前に開いた。ルリのセリフを聞いた途端、ユリカの顔つきが変わった。それは既に艦長のそれだった。

「敵の数は?」

「戦艦タイプ3隻です。あと1時間で攻撃可能限界に到達します」

「直ちに第一次戦闘配置へ移行。エステバリス隊の発進用意の指示をだして」

「了解しました」

 スクリーンが消えるが早いか、ユリカはアキトをきっと見た。その行動に、アキトも思わず緊張した。

「……アキト」

「ユリカ……」

「続きを後でするから、その服、脱がないでね」

 そう言い残すと、ユリカはエレベータへ駈けていった。


 4


 木連の攻撃は、グラビティーブラスト3発と、エステバリス隊の活躍でいとも簡単に退けることができた。しかし、アキト機は、おとりになったせいもあり、半壊のうれきめにあってしまった。そのおかげで勝つことは勝てた。だが、おとりとなったのは彼の判断ではない。いつのまにか状況でそうなっていたのだ。だから、リョーコやヒカル、あまつさえアカツキにまで誉められたにも関わらず、彼の気持ちは沈んでいた。こんなときは、部屋でゲキガンガーのVCを見るものだが、今はそのかけらすらない。だから、彼は座布団を枕にふて寝をしていた。

 シュイーンというドアが開く音。アキトは見向きもしなかった。こんなことをするのは、一人しかいない。

「アキト……」

 ユリカの、ちょっと困った声がする。

「思兼が、ここにいるっていうから、来ちゃった」

「……一人にしてくれないか」

 アキトは、ユリカに顔を向けず、投げやりな口調で言い放った。

「アキト……ユリカはとっても感謝してるよ」

「そんなもの、要らない」

「みんなだって感謝してる。みんなを守るのが艦長の役目だから、艦長としても感謝してるし……だから、元気だしてよ、アキト」

「ユリカ……おれ、なんか、だめみたいだ」

 えっと驚くユリカ。

「俺は、みんなを守れない。がんばっても、がんばっても、守れない。なんか、ダメだ、俺……」

「アキト……」

 ユリカが、近づいてきて、彼の隣で正座したのがわかった。そして、アキトの頭に手が添えられ、そのままユリカのももの上に膝枕をするカッコウになった。アキトは最初恥ずかしくなって拒絶しようとしたが、すぐにやめてそのまま頭をユリカに預けた。

「……ご主人様をなぐさめるのも、メイドの役目かな……」

「メイドじゃなかったら、こうしてくれなかったか?」

「ううん、多分したよ……」

「それじゃ、メイドになる意味、ないな」

 アキトは笑顔をユリカに見せた。

「うん、メイドさんは、もういいよ。メイドさんになればアキトのハートを捕まえることできたかなって思ったけど、無理みたいだ」

「ばっ、ばか」

 アキトは頬を真っ赤にして、その顔を見られまいと再び顔を背けた。

「……ユリカは、……その、ふつうのユリカで、いいよ」

「本当?アキト、うれしい」

 そのまま身体を彼の顔の上に被せるかたちで、ユリカは彼をだきしめた。そして、ユリカの胸の下敷きになってしまったアキトの口からは、抗する言葉を発することができなかった。


 5


 翌日。

「みてみてぇ。アキトぉ♪」

「もう、いい加減にしろ、ユリカぁ」

「ゲキガンガーのコスプレ。アキト、ゲキガンガー好きだから、きっと気に入ってくれるよね」

「ゲキガンガーは俺のあこがれだから、好きとかそういう問題じゃねぇよぉ」

「ほらほら、おへそまでだしちゃって、けっこう大胆ルックだよね♪」

「……」

「……(はぁと)」

「じゃねええ、だーかーら、やめてくれえぇぇ」


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