第2章4’ "the second person mix" 作者コメント


 本編である第2章4を読んで、気がついたことがないでしょうか。

 地の文(会話以外の文)には「アキト」という言葉は出てきません。すべて「彼」です。
(22日にアップした版では一カ所だけ誤って書いてしまいましたが、現在では直してあります)

 ユリカにとって「アキト」という言葉は、2人称の言葉だと私は思うのです。「私」という自我と「私」以外の他者。その世界で、ユリカが見つけた……いえ、ずっと待っていた、私以外の人間である「あなた」、それが「アキト」という言葉だと。ユリカの世界では、「アキトは……」という言葉はすべて「あなたは……」に置き換わるものだと。

 ですから、第三者である私は、「アキトは……」を「彼は……」にしました。こうすることで、ユリカの思い出の世界をより巧く表現できるのではないか、と考えたからです。


 そのことをもっと端的に表現してみようとしたのがこの4’です。これは基本的には「彼」を「あなた」に、「ユリカ」を「私」に置換しただけです。ですが、完全な一人称にはなりきれていません。ユリカが「あなた」と呼ぶ人間、すなわち第2人称によって呼ばれる人物がいて、はじめて「私」の世界というものが完成しているのではないでしょうか。

 "the second person"とは”第2人称”という文法用語です。そして、もう一つ、”二人目の人”という意味も込めています。

 最後に、谷山浩子さんの「二人目の人類」(アルバム「銀の記憶」に収録)という曲を紹介します。


二人目の人類  作詞作曲・谷山浩子

真夜中に目が覚めて となりを見ると
わたししかいないはずの この部屋の中
誰かが寝ていた

この人は誰? わたしではないし
この人は誰? 影ではないし

静かな部屋に寝息の音が はっきりきこえる
さわってみると温かい 腕も胸も肩も
確かに生きてる

この人は誰? わたしではないし
この人は誰? 夢ではないし

この部屋の中に わたしだけの世界に
23年目にして訪れた 二人目の人類

眠るあなたのうしろの闇に 何十億の
見知らぬ母が 見知らぬ兄が 見知らぬ友が
ふと見えた気がした

この人は誰? わたしでない誰か
この人は誰? どうしてここにいるの

この部屋の中に 私だけの世界に
23年目にして訪れた 二人目の人類

世界にとってみれば ちっぽけなひとり
だけどわたしにとっては 初めての
いとおしい魂