NADESICO the MOVIE REMIXED ALTERNATIVE


NADESICO the MOVIE REMIXED ALTERNATIVE

featuring "Electric Nymphet"

text and edit by 成瀬尚登( n2cafe@s27.xrea.com )


 

もしもひとつねがいがかなうなら

こころのくさびをぬいてください

 

こころをうがつ、さびたくさびを

くさびをさした、そのまなざしで

 

 

    序章 - prelude -

 

 

 白い霧がたちこめていた。

 重くのしかかるような、じめっとした湿気があたりを覆っている。

 梅雨の晴れ間、薄い雲の向こうに太陽が照覧する。

 きぃーっ……。

 さび付いた蝶番(ちょうつがい)が悲鳴をあげ、いまにも朽ち果てそうな門が開く。

 鬱蒼とした山中の中に広がる、一面の墓石……そこは、墓場だった。

 漆黒の喪服に身を包んだ少女が一人、姿を現す。

 銀色の髪には慎みを、金色の瞳には愁いをたたえた少女が。

 白百合の花束と藁で編んだ籠(かご)を携えた少女は、墓場を見回し、そして、静かにぬかるみの間を歩き出す。

 

 巨大な墓石の前で少女は脚を止めた。

 墓石と向き合い、無表情のまま墓石としばし対峙する。

 少女は花束と籠を脇におき、服の裾から白いハンカチを取り出した。

 そして、墓石に近寄ると、雨に濡れていた墓石を拭いはじめた。

 白いハンカチはすぐに黒ずむ。だが、少女はそれに気を止めず、そのすべてを拭き続けた。

 やがて、少女はハンカチを裾にしまうと、花束と籠をとりあげた。

 白百合の花束を手向ける。

 籠からマッチをとりだして火をつけ、線香を束ごととりだしてそれに火をつけ、しゃがんで墓の前に供える。

 それが済むと、そのままじっと墓石を見つめ、瞳を閉じて手を合わせた。

 


「アキトさん……」

 

 

 おひさしぶりです、アキトさん。お元気ですか?

 私はかわりなくいます。

 ユリカさんは、あいかわらずです。アキトさんのことを想って、ずっと泣いてます。

 アキトさんはもうこの世にいないのに、それが信じられなくて、閉じこもっています。

 アキト、アキトって言うユリカさんは以前のユリカさんかもしれませんが、でも、もう、以前のようなユリカさんには会えないのかもしれません。

 

 アキトさん……。

 あなたは、ひどい人です。

 ユリカさんを苦しめて。

 何もしないで、何も言わないで、そうやって、じっと楽しんでいるだけなんですか。

 ユリカさんが泣いているのをみて、嬉しいですか?

 ユリカさんが苦しんでいるのをみて、そんなに嬉しいんですか?

 そんなアキトさん、嫌いです。

……何か言いたいことがありませんか?

 あるのでしたら、言いに来てください。

 

……嘘、ですよ。

 やっぱり、あなたはこの世にはいないんですね。

 生きているなら、必ず私たちのところに帰ってきますから。

 

……いないんですね。

 さきほどのユリカさんの話、嘘です。

 ユリカさんは、大丈夫です……たぶん。

 以前のように明るく、とても幸せそうにしていましたから。

 アキトさんを失って……でも、それでも、ユリカさんは生きているんです。

 もちろん、アキトさんを忘れたわけではないと思います。でも……

 アキトさんを思い出として生きられるのなら、それはいいことだと思います。

 ですから、安心してください。ユリカさんは元気です……。

……寂しいですか?

 あなたはきっと……忘れられてもかまわないと、おっしゃるのでしょう。

 ユリカさんのためなら。

 でも、私は……アキトさんのことを憶えています。

 私だけは、あなたを憶えていますから……。

 

 そろそろ行きます、アキトさん。

 ナデシコbで出撃することになりました。

 ユリカさんも提督として乗艦されます。

 実は、とても嬉しいんです。

 なぜなら、私はひとりではありませんから。

……不安ですか?

 心配なさらないでください。

 ユリカさんは、私の命にかえてもお守りします。

 ですから、私の方が、あなたに先にお会いするかもしれませんね。

 その時は、よろしくお願いしますね、アキトさん……。

 

 

少女は立ち上がった。

「……近いうちに、またお会いしましょう」

 そして自嘲的に微笑むと、きびすを返して歩みだした。

 

 

その予言めいた言葉が現実になることを、少女はまだ知らない。

 

[第1章1へ続く]


はじめに

 こんにちは、はじめまして、成瀬尚登です。

 この小説は、拙作「NADESICO the MOVIE REMIXED(以下REMIXED)」を、ルリの視点で再構成したものです。「REMIXED」とは、簡単に説明すると、劇場版機動戦艦ナデシコに対して、ユリカを出しても劇場版のモチーフは成立する、という主張を具体化した小説……なはずですが、ユリカが生きていたらどうなるかというifモノとお考えなってかまいません。作者としては単なるifモノではないと悪あがきしたいところですが、作品として作者の手を放れた以上、一般的な評価は甘受すべきとも思いますので。

 ですから、この「ALTERNATIVE」の展開は「REMIXED」の展開と同じになるわけで、そちらを読まれた人にとっては新鮮味はなく、また、この「ALTERNATIVE」の存在そのものが無意味に見えるかも知れません。確かにそのとおりです。では、何故に上程するかというと、動機はふたつありまして、ひとつは、単にルリ視点で書いたらどうなるか、という実験。もうひとつは、ユリカ好き(=”ゆりかまにあ”)である自分はルリをどのようにみているのかということを、この作品を通じて、客観的に明らかにしてみようという試みです。

 はたして、この作品は終われるのかどうか……ここで泣き言をいうのは大変恐縮なのですが……わかりませんが、しばらくおつきあいいただければ幸いです。

 ”劇ナデのビデオレンタル開始日に”
成瀬尚登


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