NADESICO the MOVIE REMIXED ALTERNATIVE
NADESICO the MOVIE REMIXED ALTERNATIVE featuring "Electric Nymphet" |
text and edit by 成瀬尚登( n2cafe@s27.xrea.com )
もしもひとつねがいがかなうなら
こころのくさびをぬいてください
こころをうがつ、さびたくさびを
くさびをさした、そのまなざしで
序章 - prelude -
白い霧がたちこめていた。
重くのしかかるような、じめっとした湿気があたりを覆っている。
梅雨の晴れ間、薄い雲の向こうに太陽が照覧する。
きぃーっ……。
さび付いた蝶番(ちょうつがい)が悲鳴をあげ、いまにも朽ち果てそうな門が開く。
鬱蒼とした山中の中に広がる、一面の墓石……そこは、墓場だった。
漆黒の喪服に身を包んだ少女が一人、姿を現す。
銀色の髪には慎みを、金色の瞳には愁いをたたえた少女が。
白百合の花束と藁で編んだ籠(かご)を携えた少女は、墓場を見回し、そして、静かにぬかるみの間を歩き出す。
巨大な墓石の前で少女は脚を止めた。
墓石と向き合い、無表情のまま墓石としばし対峙する。
少女は花束と籠を脇におき、服の裾から白いハンカチを取り出した。
そして、墓石に近寄ると、雨に濡れていた墓石を拭いはじめた。
白いハンカチはすぐに黒ずむ。だが、少女はそれに気を止めず、そのすべてを拭き続けた。
やがて、少女はハンカチを裾にしまうと、花束と籠をとりあげた。
白百合の花束を手向ける。
籠からマッチをとりだして火をつけ、線香を束ごととりだしてそれに火をつけ、しゃがんで墓の前に供える。
それが済むと、そのままじっと墓石を見つめ、瞳を閉じて手を合わせた。
「アキトさん……」
☆
おひさしぶりです、アキトさん。お元気ですか?
私はかわりなくいます。
ユリカさんは、あいかわらずです。アキトさんのことを想って、ずっと泣いてます。
アキトさんはもうこの世にいないのに、それが信じられなくて、閉じこもっています。
アキト、アキトって言うユリカさんは以前のユリカさんかもしれませんが、でも、もう、以前のようなユリカさんには会えないのかもしれません。
アキトさん……。
あなたは、ひどい人です。
ユリカさんを苦しめて。
何もしないで、何も言わないで、そうやって、じっと楽しんでいるだけなんですか。
ユリカさんが泣いているのをみて、嬉しいですか?
ユリカさんが苦しんでいるのをみて、そんなに嬉しいんですか?
そんなアキトさん、嫌いです。
……何か言いたいことがありませんか?
あるのでしたら、言いに来てください。
……嘘、ですよ。
やっぱり、あなたはこの世にはいないんですね。
生きているなら、必ず私たちのところに帰ってきますから。
……いないんですね。
さきほどのユリカさんの話、嘘です。
ユリカさんは、大丈夫です……たぶん。
以前のように明るく、とても幸せそうにしていましたから。
アキトさんを失って……でも、それでも、ユリカさんは生きているんです。
もちろん、アキトさんを忘れたわけではないと思います。でも……
アキトさんを思い出として生きられるのなら、それはいいことだと思います。
ですから、安心してください。ユリカさんは元気です……。
……寂しいですか?
あなたはきっと……忘れられてもかまわないと、おっしゃるのでしょう。
ユリカさんのためなら。
でも、私は……アキトさんのことを憶えています。
私だけは、あなたを憶えていますから……。
そろそろ行きます、アキトさん。
ナデシコbで出撃することになりました。
ユリカさんも提督として乗艦されます。
実は、とても嬉しいんです。
なぜなら、私はひとりではありませんから。
……不安ですか?
心配なさらないでください。
ユリカさんは、私の命にかえてもお守りします。
ですから、私の方が、あなたに先にお会いするかもしれませんね。
その時は、よろしくお願いしますね、アキトさん……。
☆
少女は立ち上がった。
「……近いうちに、またお会いしましょう」
そして自嘲的に微笑むと、きびすを返して歩みだした。
その予言めいた言葉が現実になることを、少女はまだ知らない。
はじめに
こんにちは、はじめまして、成瀬尚登です。
この小説は、拙作「NADESICO the MOVIE REMIXED(以下REMIXED)」を、ルリの視点で再構成したものです。「REMIXED」とは、簡単に説明すると、劇場版機動戦艦ナデシコに対して、ユリカを出しても劇場版のモチーフは成立する、という主張を具体化した小説……なはずですが、ユリカが生きていたらどうなるかというifモノとお考えなってかまいません。作者としては単なるifモノではないと悪あがきしたいところですが、作品として作者の手を放れた以上、一般的な評価は甘受すべきとも思いますので。
ですから、この「ALTERNATIVE」の展開は「REMIXED」の展開と同じになるわけで、そちらを読まれた人にとっては新鮮味はなく、また、この「ALTERNATIVE」の存在そのものが無意味に見えるかも知れません。確かにそのとおりです。では、何故に上程するかというと、動機はふたつありまして、ひとつは、単にルリ視点で書いたらどうなるか、という実験。もうひとつは、ユリカ好き(=”ゆりかまにあ”)である自分はルリをどのようにみているのかということを、この作品を通じて、客観的に明らかにしてみようという試みです。
はたして、この作品は終われるのかどうか……ここで泣き言をいうのは大変恐縮なのですが……わかりませんが、しばらくおつきあいいただければ幸いです。
”劇ナデのビデオレンタル開始日に”
成瀬尚登