そのときアキトは何をしていた?


 ラストでアキトが去っていくシーンにつき、以前、拙稿「ラストシーンに対する深刻な疑問、または第二印象補論」でストーリー上の疑問点をあげてみました。本稿ではより写実的な問題を扱いたいと思います。


 ナデシコCによる「火星の継承者」の戦闘システムの掌握、そして北辰とアキトの「決戦」と、ここまではほぼリアルタイムに劇内時間が進行していたと思います。その後、アキトのブラックサレナ(またはエステバリス)が飛び去っていくのとほぼ同時に、救出されたユリカが目を覚ますというシーンにつながります。

 ところが、ちょっと考えて見てください。確かに実働部隊が戦闘不能になり、首謀者は降伏しましたが、だからといって、ナデシコのクルーがただちに、つい先程までの敵地に手ぶらで入れるものでしょうか?常識的に考えると、それなりの武装をして、慎重にことを勧めるはずです。マシン=オペレーションは握られていても、敵の方が圧倒的に人数が多いわけですから、もし一般兵士が変な気を起こしてホシノルリを謀殺でもしたらという心配はいくらしてもしたりない。したがって、それなりに時間がかからなくては嘘になる。また、そのような心配は基本的に不要だとした場合、それでも最低でも生体システム化されたユリカを捜索、救出するという時間は必要です。

 その間、アキトは何をしていたんでしょう?

 手がかりになるのは、昴リョーコの「あいつ、いっちまうのか」という内容の台詞です。リョーコはアキトに会ったのでしょうか?私はこの台詞から、実際に会ったのではと解釈しました。おそらく他の人も。そうでないと、ブラックサレナのパイロット=天河アキトという真相をはっきり知っているのがルリとミナトなのに(注:リョーコもアマテラスでの戦闘中感づいたが)、他の人がその台詞に相づちをあわせるのは不自然です(ただし、ブラックサレナの戦闘をヒカルとイズミが援護していたという事実との齟齬が問題になりますが、二人ははっきりアキトだと理解しているわけではないと思われます)。となると、それまでアキトはブラックサレナを降りて、みんなと行動を共にしていた可能性が高い。では、みんなと一緒に何をしていたのでしょうか?

 一つ考えられるのは、アキトの目的が、本当に「ユリカの救出」であるなら、ユリカの救出に向かったのではないか、ということです。なぜなら、逆に、もし行かないのであれば、それまで何をしていたのか、という疑問は生じるからです。それまで……ユリカ救出達成までなにをしていたのか。もしルリに任せて自分は待っているだけであれば、アキトの目的云々が嘘になってしまう。ルリ達の助けてきたユリカの顔をみて、はいさようなら……なんと白けた展開なんでしょう。いくら何でも、そこまで腑抜けたアキトを期待するのは無理です。となれば、やはりみんなと救出に向かったとするのが自然である、と。

 そして、生体システムから解放し、生存を確認した上で、目を覚ます前に去っていった。生きてさえいればそれいい。今の自分ではユリカに姿を見せられないから、しばらく姿を消すよ、と(偽善的な行為ではあると思いますが(前述拙稿)、本稿は映像中心にみています)。私はこのように解釈します。


 以下は、その解釈という”仮説”にのっとって展開します。となれば、アキトとユリカと再会し、勝手に満足して去って行くわけですが、ユリカは逆にアキトと再会できずに、勝手に満足させられて去られて行かれるわけです。このやるせなさ、というか身勝手さをどうすればいいんでしょう?本当に彼はユリカを愛しているのか?

 劇場版のアキトを「成長」と制作者はいいたいようですが、こんなのぜんぜん「成長」などではありません。ルリをひきとり、ユリカと3人で暮らしていた時、彼には二人をつつむ器量があった。しかし、今の彼にはそれがない。むしろ、「成長」の名の下に、それを失ってしまった。……まあ、もちろん「あわせる顔がない」っていうのもあるんでしょうけれども。それでも、やはり、それは「偽善的」という気がします、正直なところ。


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